新世紀を迎えて間もない2001年1月。
イーエックス・ワインのオープンに際して、みなさまに「これぞ掘り出し物!」と喜んでいただけるワインを求めて、私は総合監修の石田ソムリエ、そしてカリフォルニアのワインジャーナリスト康子さんと一緒に、南仏とボルドーを走りまわっていました。
私たちが今回「発見のワイン」としてご紹介するマルシヤックは、実はワイン歴20年を超える私も聞いたことのないワイン産地でした。
石田さんが数年前にパリでマルシヤックという聞きなれない名前のワインと出会い、その素晴らしい味わいがずっと記憶に残っていたそうです。
そしてこの石田さんの味覚の記憶を辿って訪れたのがマルシヤック。地図で調べてみるとフランスの中央部にポツンと存在する産地でした。
日本であらゆる文献をあたっても、マルシヤックの情報はほとんどでてきません。いったいどんな土地で、どんな造り手さんがいて、どんなワインなのか?
石田さんの味覚の記憶を頼りに、まったく未知のワインを求め、南仏から数百キロもの道のりを走りました。
生産者とのアポイントは、かろうじてフランスのスタッフが現地の文献で拾うことができた大手の協同組合だけ。
それ以外にどんな生産者がどれくらいいるのか、それすらも分からない状態で、まさに突撃訪問・突撃テイスティングだったのです。
一路、秘境(!)マルシヤックへ!
私たちはスペイン国境に近い南仏の都市ペルピニヤンを出発、一路モンペリエ方面へ地中海沿岸のハイウェイを疾走。モンペリエ手前から北におれて一般道に入り、中央山地を超えてマルシヤックを目指すというルートをとりました。
地中海を右手にみながらハイウェイを150kmで飛ばす中、静岡の茶畑にあるプロペラの数倍の大きさの巨大プロペラ数基を発見!
「あれが今、開発されつつある風力発電ですよ!」
そうなんです。南仏はミストラルという強い風が年中吹いており、近年エコパワーとして注目の風力発電も南仏名物のようなんです。
南仏のワイン生産者たちがほとんど無農薬に近い栽培ができるのも、1年中吹き続ける風のお陰です。
南仏は海に近く温暖なため湿度が高く(日本でも海際は湿度が高いですよね)、本来ならばぶどうにとって天敵である病害菌が発生しやすい環境ですが、この強い風のお陰でぶどうの表面が乾き、カビなどの害が発生しないのです。
本当に南仏って、ぶどう栽培のパラダイスなんですよね。
ハイウェイを降りて、山越えの一般道に入ると青い空と海という地中海の景色が一変。激しく切り立つ山を越えて行きます。
ちょうど北海道の層雲峡のような壮大な景観で、峻険な岩山が圧倒的迫力でせまってくるかのようです。
石田さんの「あんなところをなにかの動物にピョンピョンおりてきてほしいよね!」なんてジョークに、マンガみたいなシーンと、思わず息をのんでしまうような壮大なパノラマを重ねて大笑いでした。
さて、ちょっとお恥ずかしいお話を。
私はいつも海外を訪れるとその地域の絵はがきを買うことにしているので、さっそくコーヒーショップで何枚かのかわいい絵はがきをチェック。
「ここって羊がいるんだ」
「ここってチーズができるらしい」
「街がほんとに中世の街みたいよね」
そんな会話をしながら、何枚かの絵はがきを買って車の中にもどり、またマルシアックをめざします。
そして車の中でもう一度、絵はがきをみていると、その説明に「ロックフォール」と書いてあるのです。
「大変、大変、ここってロックフォールよ」
「洞窟、どこにあるんだろう」
「ロックフォールの街って中世の街みたいなんだ」
私はワインスクールも主宰していて、チーズのコースもご用意しているんですが、有名なロックフォールのそばを通過していたことを途中まで気がつかなかったんです……。
山を越え谷を越え、ロデーズという中都市を越えるとマルシヤックは目と鼻の先です。
ペルピニヤンを出発してからすでに5時間以上が経過していました。
マルシヤックのエリアに入って現れたのは、赤い土壌を持つ丘の急斜面にテラス状に広がる段々畑! こんな特殊な景観の畑をみたのは私も初めてです!
私たちがアポイントをが取れていたのは、地元の協同組合だけだったので、まずはそこを訪問しました。
お話を伺うと、AOCマルシヤックの植樹面積は、なんとたったの150ヘクタールとのことでした。ちょうどブルゴーニュのクロ・ド・ヴージョの3つ分しかありません。
かつては高品質ワインの産地として隆盛を誇っていたそうですが、フィロキセラ禍の後、離農した人が多かったのだそうです。
ちなみにAC認定は1989年と、まだ認定されて間もないそうです。
これだけ小さく新しいアペラシオンですから、フランスでも地元以外では知っている人がほとんどいないというのも頷けるところです。
テイスティングしてみると、ボルドーのカベルネ系の味わいに似た独特の個性をもつ素晴らしい味わいがあり、私たちは発見の喜びに包まれました。
しかし、石田さんのパリでの「味覚の記憶」は、「独特の個性は記憶通りだが、もっともっと優れた味わいであったはず」だったのです。
私たちは協同組合の方たちに丁寧にお礼をいってお別れしたあと、石田さんの「味覚の記憶」にぴったりくるような生産者を捜してみようということになりました。
「何とかしてみんなで探そう」
そこからは、まさに突撃訪問、突撃テイスティングでした。
協同組合においてあったマルシヤックに関する文献に、「優れた生産者」として「ジャン=リュック・マッタ」という小さな生産者の名前がのっていました。
また、マルシヤックを訪れる前に走り回ったラングドックの生産者達に「マルシアックの良い生産者をご存知ですか?」という質問をすると、皆さん口をそろえたように「マッタという生産者がクオリティの高いワインをつくっていますよ」とおっしゃっていました。
――日本で手に入る文献では一切捜すことのできない名前だけれど、フランスの地元でこれだけ名前のでてくるマッタという生産者って?!――
期待と希望と未知の世界を探検するようなワクワクする気分になりました。
共同組合をでたあと、手がかりを求めてマルシヤックの町の酒屋さんに行ってみました。
そこでは数種類のマルシヤックを発見できることができたのですが、残念ながら望んでいたマッタさんのワインはありませんでした。
ちょっとがっかりしたんですが、後日のテイスティングのためにそれらのワインはちゃっかりサンプル用に購入してきました。
そうです、私たちは転んでもただでは起きないのです(笑)。
マルシヤックというアペラシオンは、いくつかの小さな村の集合体になっています。そこで私たちは「ジャン=リュック・マッタ」の名前を捜して、マルシヤックの色々な村を車で走りまわっていました。
でも、だんだんと日が暮れ始め、南仏から数百キロの道のりを走ってきた私たちにも疲労が出始めていました。
カリフォルニアの康子さんも車酔いのせいか体調が悪くなってしまいました。
そんな中でついに見つけたのが、小さな「ジャン=リュック=マッタ」という看板。ブルージェルという小さな村の教会のそばでした。
疲労も忘れた私たちは、歓喜の笑顔でマッタさんを突撃訪問したのです。
今思えば、こんな田舎の夕暮れ時に、くたびれた日本人が突然現れてマッタさんもびっくりしたことだろうと思います。
聞いてみれば、この辺に住んでいるアジア系の人間は、少し離れた村に中国人の女性が1人いらっしゃるきりだそうです。
突如田舎町に現れた東洋人グループを温かく迎え入れて下さったのが、当主のジャン=リュック・マッタさんです。マッタさんの第一印象は、実に明るくエネルギッシュでパワフル、それにとっても気持ちが優しい人のように思えました。
ワインは造り手の性格や情熱が乗り移るものですから、マッタさんの第一印象は「ついに見つけたわ!」っていう期待を抱かせるに充分でした。
そして待ちに待ったテイスティング。
みんながグラスをぐるぐる回し、香を利き、口に含んで転がし、そして吐き出します。私は口に含んだ瞬間から美味しくて口元が緩くなっていました。
そして顔を見上げると、石田さんも康子さんも同じように笑顔でお互い頷きあっていました。
石田さんのパリの記憶はこれだったのです!
マッタさんのパンフレットをみると「マルシヤックとは飲んだ人をいつも会話させるワイン」と定義しています。素晴らしいと思いませんか?
もちろん、みんなでワイワイと楽しめるようなワインでもあるんですが、クロスの上で大切な人との会話を楽しむに値する、実に深みや奥行きのあるワインです。
このワインが何よりも素晴らしいのが「個性的であること」です。
このような個性のワインは、フランス中や世界中を捜してもみつからないだろうと思います。この土地のこの気候風土からしかできあがらない、独特の個性のあるワインなのです。
この独特の個性は、マルシヤックの真っ赤な土壌と急斜面、そして他にあまりみることのできないフェール・サルヴァドール種という聞きなれない品種によるものだと思います。
南仏では8月下旬、ボルドーやブルゴーニュなどでも9月中旬に収穫がはじまるのに対して、このフェール・サルヴァドール種はいわゆる晩熟型で、10月の半ば過ぎに収穫されるのだそうです。
この品種はしっかり熟すのが難しく、熟さないと青みや苦みが多くなる難しい品種なのだそうです。それで日照を確保するために南向きの急斜面の畑が必要なのだそうです。
ですから、日照の良い区画を持つぶどうを丁寧に育てる造り手と、そうでない造り手のワインの品質には大きな差が出てしまうのです。
これが他のマルシヤックのワインの味わいと、石田さんの「味覚の記憶」の違いだったのだと思います。
マッタさんは言います。
「僕は先祖を尊敬しています。フィロキセラで壊滅した畑を捨てず、急斜面の畑を大変な労働をして再興し、僕に残してくれた。それも機械もない時代にです。僕はこの二つとない独特の個性をもつマルシヤックというワインを、先祖のためにも最高のワインにしあげたいと思っているのです」
石田さんの「味覚の記憶」を辿って数百キロにも及ぶ旅をした私たちですが、こんなにも素晴らしいマッタさんのような方に巡り合えて、すべての疲れが吹き飛んでしまいました。
これからも、マッタさんとの出会いをイーエックスは大切にしていきたいと思っています。
マルシヤックに会いに行くのは、山を越え谷を越え、とてもとても大変なんですが、次回フランスに行くチャンスにはぜひまたお会いしたいと思っています。
私たちがフランスの山奥で幸運にも巡り合うことのできたマッタさんの素晴らしいワイン。ぜひみなさんにも楽しんでいただきたいと思います。
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